価格調査のやり方とは?適切な価格を設定する方法とポイントを解説
商品の価格を設定する工程を「プライシング」と呼びますが、適切な価格を算出するには事前調査である「価格調査」の工程が欠かせません。本記事では、適切な価格設定を行うためのフレームワークや価格調査のやり方について解説します。
価格調査とは?
商品の開発・販売を企業の利益につなげるには、「価格調査」「プライシング」の2つが必要です。類似した商品の多い現代では、価格以外で競合と差別化するのが困難なジャンルは珍しくありません。そのため、価格設定においては市場とマッチすることが重要視される傾向にあり、戦略的な調査方法が不可欠です。
価格調査は、市場における製品やサービスの相場を把握することを指します。自社が想定する価格と市場の価格が乖離していると、購買に至らなかったり、十分な利益を確保できなかったりする可能性があります。価格の「軸」を知るためにも、価格調査を実施しなければならないのです。
プライシングとは、価格調査の結果や戦略、原価に基づいて製品やサービスの価格を決定する工程です。市場シェアの獲得や自社ブランドの向上など、自社の目的に応じて適切な価格を設定しなければなりません。
また、設定価格が消費者の価値観と乖離しないために、実際にその価格で消費者が許容できるかを判断する「価格受容性調査」を行うこともあります。
なぜ価格調査が重要なのか
価格調査が重要とされる理由は、主に消費者と生産者のイメージの差を縮めるためです。適正価格で商品やサービスを提供できると、顧客は値ごろ感や納得感に基づいて商品を購入してくれます。
しかし、生産者が想定する価格と消費者が買いたいと思う価格が、必ずしも一致するとは限りません。特に、消費者側と生産者側で考え方は異なるケースが多いため、生産者は消費者のニーズや特徴を把握し、それに基づいて価格設定を行う必要があります。
価格調査の代表的な3つの方法
価格調査の方法は企業によってさまざまですが、主に用いられる手法は以下の3つです。
- PSM分析
- CVM分析
- コンジョイント分析
それぞれの分析手法で明確化される要素が異なるため、実際の価格調査では上記のやり方を複合的に用いるのが一般的です。
PSM分析
PSM分析とは、消費者の価格受容性を明確化するための方法です。市場における適切な価格帯を把握するため、PSM分析では以下の4つの質問を一般消費者に行います。
■質問例
- 購入するには高すぎると感じる金額
- 高いと感じ始める金額
- 安いと感じ始める金額
- 安すぎて不安に感じる金額
例えば、日焼け止めクリームを販売する場合、消費者は対象商品に対してある程度の相場観を持っているものです。個人によって金銭感覚にばらつきはあるものの、エビデンスが蓄積されると自然と平均値が定まってきます。
ただし4つの質問に対する回答のデータは、蓄積するだけでなく傾向を可視化しなければなりません。そのために、各数値を折れ線グラフで表示します。このとき、交差点が上限価格・理想価格・下限価格・妥協価格を表し、それらを合わせることで消費者が許容できる範囲の価格が判明します。
CVM分析
CVM分析とは、製品やサービスに対する購入意欲の高さを価格帯別に明確化するやり方です。価格に対するアンケートを段階的に実施し、各価格帯での購入意欲の高さを消費者に問います。
■質問例
例えば、商品に対して500円・1000円・1500円という3段階の価格パターンを設定したとしましょう。CVM分析では、まず「1000円で購入しますか?」と問い、「Yes」と答えた人には「1500円で購入しますか?」と質問し、「No」と答えた人には「500円で購入しますか?」と問いかけます。
このように、回答内容に応じて質問パターンを変え、各価格帯に対して購入意欲を持つ割合を算出します。これにより、どの価格帯で何パーセントの人が購入意欲を持ったかが分かり、消費者の購買意欲の高い価格が判明するのです。
コンジョイント分析
コンジョイント分析とは、消費者が適正と思う価格と、商品が価格に与える要素を同時に抽出するやり方です。PSM分析やCVM分析では商品の内容や仕様は固定して金額だけを変更して実施しますが、コンジョイント分析では金額と同時に製品の仕様も変えます。
例えば、トレーニングジムの適正な利用料を調査する場合、コンジョイント分析では以下のような質問を行い、消費者に最も好ましい項目を選んでもらいます。
■質問例
・月額1万円でトレーニングマシンとプールがあり、シャワールームのみのジム
・月額1万円でトレーニングマシンと、シャワールーム・大浴場があるジム
・月額2万円でトレーニングマシンとプールが付き、シャワールームと大浴場があるジム
・月額2万円でトレーニングマシンが付き、シャワールームと大浴場があるジム
このように金額と商品の仕様が異なる質問を投げかけることで、回答の傾向から消費者が何を重要視しているのかを把握可能です。ただし、質問の変更点はなんでもよいわけではありません。
コンジョイント分析を行う際には「属性・水準・効用値」の3つを事前に定義し、収集した回答結果をデータとしてグラフ化し、消費者が最も注目している要素を明確化します。
プライシングの3つの考え方
価格調査で消費者の価値観や重視する要素を抽出した後に行うのが「プライシング」です。プライシングには、主に以下の3つの方法があります。
- コストプラス
- ペネトレーションプライス
- スキミングプライス
どの手法も最終的に適正な設定価格を導き出すものですが、それぞれで価格決定の「軸」にあたる部分が異なります。そのため、プライシングにおいては価格調査と違い、使用する分析手法は1つに絞らなければなりません。
コストプラス
コストプラスとは、製品の生産または開発にかかった「原価」に、相応の利益を上乗せして価格を算出する方法です。消費者の購買意欲や競合の価格よりも、原価に重きを置いています。
そのため市場では、コストプラスを「原価志向の価格設定手法」といわれることもあります。仕入れ原価に一定の上乗せを行って価格を算出することで、価格設定のミスを回避しつつコストの回収が望める手法です。
ペネトレーションプライス
ペネトレーションプライスとは、価格設定をあえてコスト以下またはコストと同等にし、競合よりも安い価格にすることで市場シェアの早期獲得を目指す手法です。導入初期の価格戦略に用いられることが多く、目先の利益よりもシェアの獲得とブランドの確立を優先します。そのため「競争」に重きを置いた手法といえるでしょう。
ただし、ペネトレーションプライスは生産プロセスの効率化や製品市場の拡大による単位コストの減少を前提として行う手法です。そのため、製品の販売後に市場シェアの拡大や競合他社の参入を防げなければ、かかったコストを回収できない可能性があります。短期的なシェアの獲得には有効な手段ですが、リスクも大きい点には注意が必要です。
スキミングプライス
スキミングプライスとは、価格の初期設定から高めの金額を設定し、高くても買ってくれる消費者を狙って少数売上・高収益を目指す手法です。幅広い層にアプローチするのではなく、一部の富裕層や高くても買ってくれるコアなファンにターゲットを絞ります。
スキミングプライスの特徴は、投資金額の早期回収を狙える点です。コストプラスやペネトレーションプライスよりも粗利が大きいため、購買数が少なくてもコストを回収しやすいというメリットがあります。
そのため、スキミングプライスはペネトレーションプライスと対照的な手法といえるでしょう。また、粗利が大きい分、競合の参入時でも価格を下げて対抗する余地があります。
価格調査を実施する際の5ステップ
価格調査のやり方は、基本的に以下の5つのステップとされています。
- ターゲットと目標の設定
- 分析方法の決定
- 調査方法の決定
- 調査実施後の集計
- 分析と施策の実施
価格調査は、自社の商品内容に基づいて段階的に実施することで精度を上げます。そのため、必要な要素を確実に完了させながら進めていかなければなりません。
ステップ1:ターゲットと目標の設定
まずは、自社商品のターゲットと販売に対する具体的な目標、最終的なゴールを明確化しましょう。価格調査を実施する上では、どの方法を用いるにしてもユーザーや不特定多数の消費者に対して調査を実施する点は変わりません。
対象の商品によって主要なターゲットは異なるため、調査対象もできるだけ製品のターゲット層に近い方がよいでしょう。また、製品開発における目標やゴールは企業によって異なるものです。
自社の主力商品として販売するのか、それとも新規事業で実験的な要素を含めているのか、商品によって求める要素は違うものです。対象の商品が自社のなかでどのようなポジションを占めているのかを事前に理解し、適した分析手法を決定しなければなりません。
ステップ2:分析方法を決定
分析方法は先述したPSM分析・CVM分析・コンジョイント分析の3種類がメインです。用いる手法は複合的に実施すると有益かつ正確な情報を獲得できますが、実施には労力や時間などリソースを使うものです。
予算や人員など潤沢なリソースがあればすべて実行できますが、限られている場合は必要最低限の手法に留めておきましょう。ただし、各分析手法で得意不得意は異なり、1つの手法で欲しい情報をすべてカバーできるわけではありません。
また、分析方法は前述した3つ以外にもあります。自社製品の価格設定に必要な情報を、ターゲット・目標・ゴールに基づいて定義し、必要な分析方法を選定しましょう。
ステップ3:調査方法を決定
ステップ1とステップ2が完了したら、具体的な調査方法を決定します。顧客アンケート、モニター調査、集団インタビューなど、用いる手段によって得られる情報は異なるものです。例えば回答内容に応じて質問内容が変わるCVM分析の場合、Webサイトを用いた顧客アンケートを実施することで、自動的にテスターを次の質問に誘導してくれます。
また、価格に影響を与える要素も調査内容に加えるコンジョイント分析では、実際に商品を見て、触れるモニター調査が適切といえるでしょう。PSM分析では、固定の質問を全消費者に投げかけるため、集団インタビューで効率的に実施が可能です。このように、分析手法に応じて適切な調査方法は異なります。
ステップ4:調査実施後に集計を実施
調査の実施後は集計を行い、集計結果をエクセルやデータベースにグラフとして反映し、調査結果のデータを可視化しましょう。どの分析手法においても、集計結果に基づくグラフによる可視化が工程に含まれるため、事前に集計結果をどのような形式でデータとして格納するかを定義しておかなければなりません。
調査規模によっては人力での集計が難しい場合もあるため、手書きのアンケートよりもスマートフォンやパソコンを使った回答で自動的に集計する方法が効率的です。
ステップ5:分析と施策の実施
最後に、分析結果をもとにプライシングや製品の仕様を決定していきます。必ずしも最初に実施した調査内容が最適とは限らないため、手法は絶えず改善し続ける必要があります。今後の価格改定や新商品の販売における価格調査を効率化するために、PDCAを回しながら分析手法は絶えずブラッシュアップしていきましょう。
価格調査を実施する際の注意点
価格調査は市場で意識されている価格を算出する方法ですが、調査のやり方が必ずしも正しいとは限りません。エビデンスが不足していれば実態と乖離した結果が生まれてしまいますし、調査から時間が経つと消費者のニーズが変化する可能性もあります。そのため、価格調査を実施する上では、以下の点にご注意ください。
「値ごろ感」を意識
どの企業でも最終目標は利益の追求に帰属しますが、利益ばかりを追い求めると、消費者のニーズよりもコストに目が行きがちです。そのため、企業内部の意見だけで価格を設定してしまうと、市場で受け入れられるかどうかが販売後にしか分かりません。
前述したPSM分析やCVM分析のように、消費者が意識している価格を割り出せる手法を用いて、消費者ファーストの価格設定を意識しましょう。
データはあくまで仮説
価格調査で得られる結果はあくまで仮説です。反映されたデータが絶対のものと保証されているわけではありません。商品の販売後は、売上数やユーザーの使用感など、実際のデータを参照して設定価格が適切かどうかを判断しなければなりません。
具体的な購入率までは把握できない
価格調査やプライシングが適切でも、現在の価格が今後も適正かは分かりません。消費者のニーズは絶えず変化するもので、ターゲットの意思や急激なニーズの変化を考えると、具体的な購入率までを価格調査で把握するのは難しいでしょう。
まとめ:価格調査で価格設定の精度を上げよう
価格設定の精度を上げるには、PSM分析やCVM分析といったフレームワーク化した方法を実施し、消費者や市場が意識している価格を把握する必要があります。
ただし、価格調査の結果が適正である保証はないため、あくまで仮説のままプライシングを実行していかなければなりません。もしも価格設定が難しい、または調査自体のやり方が分からない場合は、マーケティング会社に依頼するという選択肢もあります。
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